(読んで更新しました)哲学対話・哲学カフェに関連する本「人は語り続けるとき,考えていない: 対話と思考の哲学」河野 哲也

哲学対話界の大御所とでも言ってよいだろう河野先生の本です。まあ、僕は哲学業界に所属している訳ではないので大御所云々は関係ありませんが。読むと、予想に反して大御所感など全くない、逆に、ここまで攻めていいのかと思うほどの内容でした。
(逆に、このポジションにあるからこそ書けるのかもしれませんが・・・)

内容は、事前の予想通り、哲学対話の実践について紹介するようなものではなく、まさに哲学的に捉えようとしているものでした。
ネタバレになりますが、第1章から飛ばしています。哲学対話の意義については、これまでよく「思考の民主化」ということが言われてきましたが、河野さんは新たに、ソクラテスの無知の知(の河野流の解釈から)非知への回帰という意義を提案します。
これだけでもお腹いっぱいで、この本は哲学対話の意義を論じる本なのかと思いきや、第2章以降も、思考、身体とどんどん新しい話が展開していきます。え、こんなに盛り込んじゃっていいの?と戸惑うほどです。

多分、この本は、哲学対話に関するこれまでの学術的な議論の経緯を全く知らない方が読むのはきついと思います。
それは、この本が難しいからではなく、この本において、河野さんが何と闘っているかがわからないと理解できない部分があるからです。
河野さんは、この本を通じて、従来の哲学対話論と格闘し、その枠組みを超えた新たな哲学対話論を立ち上げようとしています。そのことを通じて哲学対話に新たな息吹をふきこもうとしています。その姿勢が哲学であり、そして(河野さんが論じるものとしての)哲学対話的だなあ、と思いました。

この本は、ある程度哲学対話を経験し、そこにひっかかるものを感じた方には是非読んでいただきたいです。正直、議論全体を理解し、同意することはないと思いますが(そもそも河野さんの議論自体がそのようなものを目指していないと思います)、そこには今後自ら考え、またはみんなで考えていくうえでの様々なヒントが散りばめられています。これでもかというくらいに!

(蛇足)僕自身がどこまで理解できているかはわかりませんが、読むうえでのアドバイス?を少々。
哲学は、フィロ(愛)ソフィー(知)の訳語であり、もともとは希哲学であったのが、哲学と短縮されたものだそうです。
現代では「知」というと科学的知識というイメージがあります。ですが、この本では、科学的知識と哲学的知識は全く別のものという方向で論じているので、この本を読む間は、哲学における知識とは「知」ではなく「智」なのだ、と考えたほうがいいかもしれません。
また、この本は、「智」は簡単に手に入るものではなく、ただ目指し求めるもの、という方向で論じられています。勝手な解釈ですが、そこには若々しく勉強の途中にある人というイメージがあります。ですので、すでに色々なことを知っている大哲学者が思い起こされる「哲学」という言葉ではなく、「希」という言葉が入った本来の訳語である「希哲学」のほうが、この本においてはしっくりきます。
ということで、この本で「(哲学的な)知識」という言葉が出てきたら「智識」、「哲学」という言葉が出てきたら「希哲学」というように脳内変換すると、従来の常識的な考えから距離をとり、河野さんが行っている独自で特別な主張をより鮮明に捉えることができるように思います。

(読んで更新しました)哲学対話・哲学カフェに関連する本「人は語り続けるとき,考えていない: 対話と思考の哲学」河野 哲也” に対して2件のコメントがあります。

  1. のだ より:

    「人は語り続けるとき,考えていない: 対話と思考の哲学」という書名から、以下の書籍があることを思い出しました。本は読んでません。
    「対話の害」
    https://www.sakura-sha.jp/book/skillup/taiwanogai/
    著者は教育学の研究者。
    教育分野では最近対話などのアクティブラーニングが流行っておりますが、受講生に聞いてみると意外と評判が悪い場合もあるようです。

    1. ichiro より:

      教育関係者ではないですが、なんとなく、僕もアクティブラーニングには懐疑的です。
      理想的なかたちでアクティブラーニングがされればいいものであることに間違いないけれど、多分実際は、対話として不徹底なものになってしまうのではないかという感じです。
      それでもやらないよりマシという考え方と、やらないほうがマシという考え方の対立があるのだろうけど、残念ながら今の日本では後者のような気も・・・
      大人が対話的になれないのに、どうやって子供に対話的になるように教育できるのかな、という疑問ですね。

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